物事を絞り込むときに使われる定番アプローチ
職場でのお話。
ミーティングで挙げられた幾つかの案。
それを1つに絞り込むために、次の様な進行方法がとられました。
「まずメリットとデメリットを思い付く限り挙げて、それらを検討して絞り込もう!」
まずメリットとデメリットを洗い出す。
物事を絞り込むときに使われる定番のアプローチだと思います。
私も、そのときは何の疑問も持たず、その進行に乗っかりました。
しかし、そこには大きな落とし穴が口を開けていたのです。
そのやり方、よくありません
真っ先にメリットとデメリットを洗い出す。
これは、一見すると大変に合理的な方法に見えます。
客観的に良い点と悪い点を並べて比較することができるので、公平だと。
ですが、それは大きな勘違いです。
このやり方は決して客観的などではないし、公平でもなかったのです。
バトルロワイアルの始まりです
実際にこのやり方を経験した事がある方、そのときのコトを思い出してみて下さい。
ホワイトボードに縦線と横線が引かれ、表が描かれる。
縦には各案の名前が並び、横に向かって「メリット」の欄と、「デメリット」の欄。
さあ、各案についてメリットとデメリットを思い付くまま挙げてみましょう!
最初は各案について、メリットが1つ2つ挙がります。
しかし、ほどなくしてデメリットが挙がりだすと、雲行きが怪しくなります。
互いが相手の案に対してデメリットを次々と挙げて行きます。
メリット1つに対して挙がるデメリットの数が3つを降ることは、まずないでしょう。
さらに、各デメリットに対する内容検討となると、場の空気は完全に一変します。
各々が相手の案に挙げたデメリットを攻撃し合い、さながらバトルロワイアルの様相を呈します。
そして…。
蹴落としあいの末に…
おめでとう!1つの案が選ばれました。
しかし、何故でしょう?皆は揃って渋い顔。
あまり嬉しそうではありません。
当然です。
なぜなら、選ばれた案は、まさにラストマン・スタンディング。
互いに相手をこき下ろしまくった結果、ようやく生き残った1つなのですから。
周囲は殴られ蹴られて却下されたわけで、面白いわけがありません。
また残った1つも、同じ様にデメリットに対して総ツッコミを喰らってきたわけですから、すでにボロボロです。
しかも、そこはようやくスタートライン。
これから選ばれた案は、自分に打ち込まれたデメリットの矢を抜きながら、蹴落とした案の支援者達の恨みを背に受けつつ走らねばならないのです。
もはやどこにあるのかも定かでなくなったゴールを目指して…。
と、少し叙情的に煽った感じになりましたが、私が言いたいことは伝わると思います。
デメリットという互いの最もデリケートな部分を小突きあった末に何かを選ぶ。
これは、感情面から考えると大変に下策なのです。
これから一緒にもの事に取り組もうという仲間と互いの弱点を散々に叩き合った後で、さあ、俺が勝者だ!お前らよろしく頼むぜ!などと言われても、面従腹背、なかなか心から協力しようという気にはなれないでしょう。
チャレンジするんだからリスクが多いのは当然
そもそも、何かを選ぶということは、先の見えない何かに挑戦するということです。
チャレンジなのです。
チャレンジするのですから、どの選択肢にもデメリット(リスク)が多いのは当然。
そこに「メリットとデメリットを思うまま」などと言われれば、デメリットが多く挙がるのも自然な流れなのです。
つまり、デメリットは挙がるべくして挙がってくるわけです。
生き物はデメリットに過敏に反応する
そして、もう1つ。
生物としての避け得ない習性が、このアプローチ方法では牙を剥きます。
それは、「生き物はデメリットに過敏に反応してしまう」という習性です。
何かを得られるかもしれないメリットと、既に手にしている何かを失うかもしれないデメリット。
両者が並立した場合、生物がより強く反応するのは、デメリットの方なのです。
よく「失敗を恐れるな!」と言われますよね。
この場合、それは非常に避け難い傾向であることを意味するのです。
デメリットとは恐怖
さて、デメリットとはリスクであり恐怖です。
そして恐怖には以下の3つの特性があります。
- 伝染
- 同化
- 増殖
恐怖(デメリット)が持つこれら3つの特性は、輝いていた希望(選択肢)の数々を、あっという間に台無しにしてしまいます。
デメリットをあげつらうということは、これら恐怖の特性に跳梁跋扈する舞台を与えることに他ならないのです。
伝染
恐怖は伝染します。
誰かが恐怖するところを目にしたとき、横にいる人は平静ではいられません。
ある案のデメリットが攻撃されるのを見たとき、それに似た性質を持つ案は同様の結果を恐れます。
そして、自身の案を推す思いを萎縮させます。
同化
恐怖は同化します。
誰かが恐怖を抱いたとき、その人は恐怖そのものになってしまいます。
ある案に対してデメリットが挙げられたとき、そのデメリットは、切り離せない人面瘡の様に案と同化します。
まるで案自体がデメリットである様に。
そして、あれほど良いと思っていた案が、実は酷いものなんじゃないか?と考え始めます。
増殖
恐怖は増殖します。
誰かが恐怖に捕らわれたとき、そこには新たな恐怖への種が蒔かれます。
ある案に対してデメリットが指摘されたとき、それは次のデメリットへの呼び水となります。
それが問題なら、ここも問題じゃないか!
次々とデメリットが挙げられ、一面暗黒の花畑が拡がることになります。
そして、デメリットだらけの比較表ができあがります。
ではどうするか?
さて、散々に「まずメリットとデメリットを洗い出す」やり方についてケチをつけました。
ですが「じゃあ、どうすんねん!?」という答えを、まだ出していません。
ここからは、それについて述べさせていただきましょう。
恐怖への対抗手段
先に私はデメリットを「恐怖」に例えました。
恐怖に対抗するものは何でしょうか?
そう「勇気」です。
今も昔も、恐怖に打ち勝つ武器は「勇気」1つなのです。
「は?勇気?そんな曖昧な答えあるかい!!」と思われた方、少し落ち着いて下さい。
「勇気」というのは例えです。
この場合、「勇気」というのは「目的」のことです。
何かに挑戦する。
そのための何かを選ぶ。
そんなとき、決して忘れてはならないもの。
皆が1つだけ、持ち続けなければならないもの。
それは「目的」です。
「目的は何か?」これを離れては、どの様な案も無意味なのですから。
まず「目的」を共有する
ですから、メリットやデメリットを云々する前に、まず全員が同じ目的を共有する様にします。
ホワイトボードに目的を大きく書き出しましょう。
そして、その目的に全員が向かうことを確認しましょう。
「そんなの最初からわかっている!」は無しです。
なぜなら、皆が最初はわかっているはずなのに、「すぐに忘れ去られる」のが目的なのですから。
周囲にありませんか?
「これ何でやってんの?」と思う様な仕事とも言えない様な仕事の数々。
それは恐怖に捕らわれ、目的を見失い、ゾンビの様に彷徨う、かつての選ばれし案の1つなのです。
ですから、忘れても思い出せるように、しっかりと書きだしておきましょう。
もし揉めそうになったら、必ずこの「目的」に照らしてみます。
目的に適うのはどっち?
この「目的」は恐怖に満ちた世界を照らす道標であり、全てを決定するジャッジでもあるのです。
これで、ルール無用のバトルロワイアルに、誰もが従う公平な審判が生まれました。
順位付けする
さて、目的は皆で共有できました。
そして、様々に案を挙げるところまでは、これまでと同じです。
しかし、メリットとデメリットを挙げることはしません。
先ずはメリットだけを挙げてもらいます。
デメリットは一切無視です。
そして、メリットを挙げ終えたら、皆がそれぞれに「これがいい!」と思う案に票を入れます。
票を入れ終えたら、各案には得票数に応じて順位を付けます。
各自が票を入れるなら、それぞれが自分の案に1票を入れて、1番なんて決まらないと思いますか?
面白いことに、そうはなりません。
いざ票を入れる段階になると、面白いことに自分の案以外に票を入れる人が結構出るものなのです。
これには、責任回避という、やはり恐怖に関係する心理的な動きと、自身が攻撃を受けていないことによる安心感が、他の案に対する許容度を高くしてくれるという傾向が影響しています。
つまり、各自が勝手に自分の中で折り合いをつけて、納得のできそうな場所に落ち着いてくれるのです。
これで、不毛な争いを経ることなく、平和的かつ自主的に勝者を決めることができました。
ちょっとした工夫
ちなみに、票を入れるときのちょっとした工夫ですが、1人1票ではなく、1人3票などの持ち点方式にすると、ベターです。
理由はわかりますね?
票が割れても順位が確実につく様にです。
2番目じゃ駄目なんですか?
さて、投票の結果、1番の案が決まりました。
では、皆でその案に向かって動きましょう!
ちょっと待って下さい。
2番目じゃ駄目なんですか?
そんなことはありません。
2番目どころか、ドンケツに至るまで、まだ役割は終わっていません。
慌てずに次へ進みましょう。
デメリットでなくハードル
ここで、ようやくデメリットの出番がやってきます。
ただし、呼び名を変えましょう。
「ハードル」です。
デメリットではありません。
デメリットとは、「欠点」です。
そこには常にネガティブなイメージがつきまといます。
対して、ハードルは「障害」です。
障害も確かにネガティブな存在ですが、それは同時に「超えるもの」です。
単に呼び名の違いじゃないか!と思われる方もいるかもしれませんが、名前や呼び名というのは、結構な力を持っているものです。
特にそれが何かを連想させる性質を持つ場合は。
だって、「ハードル」って言われると、跳び越してみたくなりませんか?
え、ハードルは苦手でしたか?
じゃあ、蹴倒そうが、避けて走ろうがOKです。
少なくとも「デメリット」よりは解決する思考に結び付きやすいですよね?
名前を変えるというのは、そういうことです。
ハードルを設定するのは、1番の案だけ
さあ、ハードルと名前を変えたところで、1番になった案に対して、それを実現するためにクリアせねばならないハードルを洗い出します
目的を果たすために障害となるハードルは何か?
バンバン挙げて行きましょう。
ただし!ここで注意して欲しいことが1つあります。
それは、ハードルを設定するのは1番の案に対してだけということです。
2番目以下の案は、まだ待機です。
とにかく1番目の案を徹底的に磨きこみましょう。
超えられない壁の登場、その時!
1番の案に対するハードルを全て挙げきり、これに対して対策を検討します。
しかし、1番となった案と言えども、超えられない壁の様なハードルが登場する場合があります。
と言うより、おそらく必ず出て来るでしょう。
その時!これまで待機させていた2番目以降の案の出番がやってきます。
そう、まるで主人公のピンチに現れるかつてのライバル達の様に!
キツいハードルが現れたら、他の案を上手く取り入れることで解決できないか?を検討します。
分ける、混ぜる、とっておく
共通の目的に対して選択肢が列挙される場合、それらが全く無関係ということはあり得ません。
なにせ同じゴールを目指す同志なのですから。
なので、1番目の案が大きな壁にぶつかったとき、2番目以降の案を上手く活用することで、それをクリアできる場合が多いのです。
丸ごとそのままを使うことは出来なくとも、良いところ取りをしたり、他の案とミックスしたりすることで効果を発揮します。
例え真逆の案であったとしても、それは1番目の案がどうにもならずコケたときのプランBとして機能させることが可能なのです。
せっかく皆で挙げた案。
切り捨てる必要などありません。
分けたり、混ぜたり、とっておいたりすることで、余すことなく活用しましょう。
役割があるということの効果
この様に2番手以降の案を切り捨てずにおくことの効果は色々ありますが、詰まるところ「役割がある」という1点に集約します。
誰でも、「お前は不要」と言われたくありません。
実際に出番があるかどうかはともかく、とにかく「自分(の案)にも役割がある」ということ。
それが、選ばれた1番の案に対する敵愾心を緩和してくれるのです。
そして、敵愾心が無ければ、それは共にゴールを目指す仲間になり得ます。
自分以外が困っている時に助け舟を出す心の余裕も生まれます。
背中を預ける仲間に、素直に「助けてくれ」とお願いできる余地もできるのです。
まとめ
長々と書き連ねてきましたが、まとめると以下の様になります。
- メリットとデメリットを最初に挙げるやり方は、良い方法ではない。
- 特にデメリットを挙げ合う行為は、感情面からみて非常に下策。
- デメリットは恐怖と同じ特性を持つ。
- 恐怖は伝染し、同化し、増殖する。
- 恐怖への対抗策は「目的」に向かう勇気だけ。
- 目的を共有できれば、協力関係が生まれる。
- 協力関係を生むには、敵愾心を持たせないこと。
- 敵愾心を持たせないためには、役割を与えること。
私は今回、その場の流れに任せて、メリットとデメリットを挙げるやり方に参加してしまいました。
しかし、もう少し上手く立ち回れば、今回後半で紹介した様なアプローチに路線変更できたと思います。
皆さんも同じ様なケースに陥りそうな場合、この記事のことを少しでも思いだして下さると嬉しいです。
私も次は二の轍を踏まないつもりです。